冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●30
 うれしい、うれしい、うれしい!!!

 メイは、調理場の流しのところで思い切り喜んだのだ。

 やっと。

 やっと一つだけ、カイトの役に立てたのである。

 お皿を洗うなんて、メイにとっては本当に大したことじゃない。
 いつもやっていたことで、身体が自然に後かたづけを始めようとしていた。

 しかし、カイトはそれすらダメだというのである。

 彼女がお金のことを気にしていると思ったのだろう。

 勿論、気にしないでいられるハズもない。

 けれども、こんな些細なこともさせてもらえないなんて、自分の存在価値に関わるのだ。

 ようやくカイトから皿洗いの許可が出た。
 それが嬉しかった。

 カイトのためになること。

 一個ずつそれを、彼女は増やしていきたかった。

 カイトに、こいつを助けてよかった、と思って欲しかった。
 後悔なんかさせたくなかったのだ。

 たった一つだけ。

 でも、大事なひとつ。

 凄く嬉しくなって、皿洗いに取りかかる。

 洗剤にスポンジに――何だか、すごく久しぶりな気がした。

 ハルコが手入れしているだろう流しは、蛇口を開くのをためらうくらいに綺麗で。

 けれども、そうも言ってられない。

 カイトに5分というタイムリミットまで、おまけにもらってしまったのである。

 でも、でも。

 メイは袖口を曲げて、水を出す。

 本当に、嬉しくてしょうがない。

 そりゃあ。

 確かに、まだ胸の中で沈めた思いは完全に見えなくなってはいない。

 どこでつっかえているのか、彼女の胸の途中で深度を止めたまま。

 でも、きっと。

 これからゆっくりでも、それは沈んでいくのだろうと思った。

 いつもと同じ後かたづけ。

 でも、いつもと全然違う。

 場所だとか、そういうものじゃない――あの人のために。

 それで、胸がいっぱいになるくらい嬉しかった。
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