冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 本当はとても優しい人なのに、それをうまく表現できないのだろう。

 だから、いつもあんな乱暴な言葉になってしまうのだ。

 彼女に仕事をさせないように怒ったのも、きっと違う意味合いの優しさなのだ。


 カイトの道は、とても速く――ムービングロードの上を、更に走ってるみたいに思える。
 メイの道は、舗装もされていない田舎道で。
 遠くには行けないけれども、ずっとのんびり歩いていける。

 そんなに違う道が、交差する瞬間があったのが不思議でしょうがなかった。

 多分、それは。

 一生に一瞬だけの交差だったに違いない。

 パチン。

 カイトはいきなり、ここには用はないと言わんばかりに調理場の電気を消す。

 まだ、メイは中にいるというのに。

 いきなりのことに、ビックリする。

 光は、ドアからダイニングのが漏れ入るだけ。

 彼の姿が、黒い塊になった。

 不安が、どっと押し寄せる。

 ベッド以外の場所を、いきなり暗くされるのは、すごく苦手なのだ。

 たとえどこかに光があっても、自分の側にないのは不安で。

 明かりがついている時とは、その場所の表情が全然違って、知らないところのように思えた。

 カイトが壁から動き出すより先に、メイは慌てて調理場から逃げだした。

 そうして、明るいダイニングに飛び込む。

 ドキドキしながら、振り返って暗い地獄の縁を見ると。

 カイトが闇の中から、怪訝そうに首を傾げながら出てくる。
 彼女の逃げ出した理由が分からないのだろう。

「あ…暗いのは…ちょ、ちょっと…」

 聞かれてもいないのに、慌てて言い訳をするのは、また怒られてしまいそうだったから。

 しかし、しゃべっても怒られそうな気がするのは何故なのか。

 カイトの眉が揺れる。

「で、でも…そんなに怖いワケじゃないんですよ。オバケの話とか聞かない限りは…あ…えっと……その」

 何を言ってるんだろう。

 焦れば焦るほど、自分が物凄く間抜けな話をしているような気がする。

 おまけに、この年になって『おばけ』だなんて。

 すごく、子供っぽいことを彼に教えるようなものだった。
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