冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「行くぞ…」

 しかし、カイトはそのコトについては言及してこなかった。

 怒りもしなかった。

 ただ、不機嫌な表情のまま彼女の先を歩いて、ダイニングを出ようとするのである。

 まだ、テーブルの上も拭いていないのだが、それをカイトの背中に伝える勇気は、メイの中にはなかった。

 けれども、カイトが背中を向けている間に、ささっとテーブルの上の保温プレートの電源を切った。
 そうして、また怒鳴られる前に小走りについていく。

 ちょうど彼は、後ろが静かなのに気づいたようで、ドアのところで振り返った。

 何とも言えない顔だ。
 振り返り慣れていない顔、というか。

 また、部屋の電気を消されてはたまらないので、メイは大慌てでドアまでたどりつく。

 止まったままのカイトを見上げて。

 そこで。

 彼女も、カイトにどんな顔を向けていいのか分からなくなった。

 怒鳴っていない彼なのだ。
 怒鳴っていなくて、苦手そうに振り返って待っていてくれた彼に――どんな顔を。

 うっかりすると、また心に沈めた沈没船が浮き上がってきそうだった。

「あ…あの…電気…この部屋の電気、どこですか?」

 その感覚が落ち着かなくて、メイはキョロキョロした。

 じーっと見られているのが分かる。

 ああ、やめてやめて、そんなに見ないで。

 心を見ないで。

 見られているような気になる。沈みかけた船の、水面を向いている舳先を。

 ここを暗くして、彼に自分を見られないようにしてしまいたかった。

 さっきの怖さなど吹っ飛んで、メイは辺りを探す。
 でも、そういう時に限って部屋のスイッチが見つからない。

 カイトは。

 そのまま、彼女に背中を向けて歩き出した。

 あれ?

 メイは驚く。

 怒鳴られなかったのもそうだけれども、何よりも、この部屋の電気をつけっぱなしで。

 電気を。

「あ、あの…!」

 背中に向かって呼びかける。

 返事は。

「いーから、早く来い!」

 クソッとかいう言葉が、おまけについてきそうな忌々しそうな声だった。
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