冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□
あ。
カイトは目を疑った。
彼女が、ホッとしたように笑ったのだ。目の前で。
「よかった……」
笑った。
カイトは、頭が真っ白になったまま、その顔を見つめてしまった。
ケバい化粧は、限りなく似合わない。
それなのに、またその仮面の下から、素の表情が現れたのだ。
見える度に、身体の中の何かが破れる音ばかりするのに。
ハッ。
見とれていた自分に我に返る。
何やってんだ、オレは。
自分を叱咤して、今度は笑顔なんかに惑わされずに彼女を見た。
アタッシュケースを重そうにフラフラしているので、カイトはそれを奪い取る。
上着も。
そうして、いつまでも通路に突っ立っているワケにもいかず、彼女の背中を押すように、元いたボックスに戻ったのである。
「なんで、出てきたんだ……」
オレの荷物なんか持って。
戻るなり、詰問である。
動くな、という時に動く女は、必ず悪役にさらわれる運命なのだ――彼らゲーム業界のオキテである。
勿論、ハリウッドのオキテでもあった。
そうして、主人公が山ほど危ない目にあっても、女は何故か無傷で「待ってたわ!」と、涙をこぼして抱きつくのだ。
めでたしめでたし。
しかし、次の場面か続編では性懲りもなく、またさらわれるのである。
「あ……だって……もう、戻っていらっしゃらないと……思って」
しゅーんと、小さくうつむきながら、彼女はそう言うのだ。
「んなワケねーだろ……荷物置いてったじゃねーか」
人差し指で突きつけるように言うと、さらに彼女は小さくなる。
「でも…他の人とボックスに入られたから……」
だから、てっきり。
そこまでで、彼女は口をつぐんでしまった。
あ。
カイトは目を疑った。
彼女が、ホッとしたように笑ったのだ。目の前で。
「よかった……」
笑った。
カイトは、頭が真っ白になったまま、その顔を見つめてしまった。
ケバい化粧は、限りなく似合わない。
それなのに、またその仮面の下から、素の表情が現れたのだ。
見える度に、身体の中の何かが破れる音ばかりするのに。
ハッ。
見とれていた自分に我に返る。
何やってんだ、オレは。
自分を叱咤して、今度は笑顔なんかに惑わされずに彼女を見た。
アタッシュケースを重そうにフラフラしているので、カイトはそれを奪い取る。
上着も。
そうして、いつまでも通路に突っ立っているワケにもいかず、彼女の背中を押すように、元いたボックスに戻ったのである。
「なんで、出てきたんだ……」
オレの荷物なんか持って。
戻るなり、詰問である。
動くな、という時に動く女は、必ず悪役にさらわれる運命なのだ――彼らゲーム業界のオキテである。
勿論、ハリウッドのオキテでもあった。
そうして、主人公が山ほど危ない目にあっても、女は何故か無傷で「待ってたわ!」と、涙をこぼして抱きつくのだ。
めでたしめでたし。
しかし、次の場面か続編では性懲りもなく、またさらわれるのである。
「あ……だって……もう、戻っていらっしゃらないと……思って」
しゅーんと、小さくうつむきながら、彼女はそう言うのだ。
「んなワケねーだろ……荷物置いてったじゃねーか」
人差し指で突きつけるように言うと、さらに彼女は小さくなる。
「でも…他の人とボックスに入られたから……」
だから、てっきり。
そこまでで、彼女は口をつぐんでしまった。