冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 言葉が下手で短気。

 これは、すぐに人に見える部分だけに、かなりマイナスだ。

 でも…。

 メイは、ソファから彼の背中を見ていた。

 会社でパソコンを触ったことはあった。
 それは、ちゃんと使いこなせるということではないが。

 だから、すぐに気づいた。

 彼は――左利きなのだ。

 マウスが、そっち側にある。

 目にも止まらぬ速さでマウスが動いていく。
 画面を、本当に見ているかも分からないほど速く、めまぐるしく色が変わる。

 でも。

 左利きという、一つ発見があった。

 その事実が嬉しくて、ちょっとだけにこっとしてしまった。

 しかし、慌てて笑顔を引っ込める。ジロジロ見ていた上に、笑っていたところなんか彼に見られたら、また叱られてしまいそうに思えたのだ。

 その発見は嬉しかったが、それだけではなかった。

 結局彼は、メイをソファに座らせてくれた。
 途中経過は、短気で口べただったかもしれない。

 けれども、結果を見れば、確かにそうだ。

 本当は、とっても優しい人なのだと。

 それが身体にしみてくる。

 いけない、いけない。

 慌てて、胸の中の船の重石を増やす。

 少しずつ、カイトのことが分かっていく。

 でも、それは全然イヤじゃなかった。

 最初は、確かに怖かった。

 しかし、一度怖いが外れてしまうと、驚かされることはあっても、どれも胸がジンとする。

 いま、自分がソファにいる事実だけでも、このありさまだ。

 そのせいで、決して気持ちを彼に見せたりはできないが、メイは心の中の船を、いま以上沈められずにいたのだ。
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