冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 そのまま、しばらくじっと彼の背中を見つめていた。

 退屈はしなかったが、振り返りそうな気配がして、慌ててメイは視線をそらした。

 あぁ…。

 そうなると、いつでもカイトが振り返りそうで、彼の方を見られなくなってしまう。

 途端に、何もすることがないことに気づいたのだ。

 昼間、ハルコが持ってきてくれた本は、彼女がどこかに片付けてしまったのか、もう見えない。

 本当に、座っていることしかできなかった。

 家ではこの時間、何をしていただろう。
 後かたづけをしたり、洗濯物をたたんだり、テレビを見たり。

 あ、編み物…途中だったっけ。

 メイは、ぽつっと思い出してしまった。

 ただテレビを見るのは手持ちぶさただったので、彼女はセーターを編もうとしていた。
 編み上げるのを待たずに、世界が急転してしまったのだ。

 とか、考えることもそう長くはもたない。
 すぐにまた、彼女は退屈になってしまった。

 チラッ。

 カイトの方を見ると、まだマウスを操作している。
 その、カチカチという音しか聞こえない部屋。

 彼は、まだシャツ姿だった。
 シャツが汚れていることを思い出した。

 茶色のカシオペアだ。

 あのままじゃ、シミとして残るんじゃないかと気になる。

 けど、言えない。

 でも、シミになったら、あんなに白いシャツのあんな目立つ場所だから、二度と着られなくなっちゃう。

 すごく気になる。一度気になり出すと、もう止められない。

 ああ、そうだ。

 そこで、メイの頭の中で電球が光った。

 真正面に言ったら、彼に叱られるだろう。

 しかし、彼女はいい方法を思いついたのである。

 うまくすれば、そのシャツのシミを落とせるかもしれなかった。

「あ…あの」

 代わりに勇気が必要になる。

 朝、彼のネクタイを締めた時のような勇気が。
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