冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ピタリ。

 カイトは、彼女の声に止まってしまった。

 動かしかけていたマウスが、本当に時を止めたように。

 もしかしてタイミングが悪いんじゃないかと心配になったが、喉に勇気を込める。

「あの…お風呂に…そう、お風呂に入られません?」

 これが、メイの考えた作戦だった。

 まず、カイトをお風呂に入れる。
 勿論、シャツは脱ぐだろうし、別のものに着替えるから、シャツは脱衣所に置いてくるだろう。

 後からメイがお風呂を借りて。

 その時にお風呂場の中で、シャツのシミへの応急処置をしておく。
 そして、脱衣所に戻しておけば。

 多少はシャツが濡れるけれども、きっとカイトは、それに触らないだろうからバレたりしないに違いない。

 完璧な計画だと思って、ちょっとだけ彼女は嬉しくなった。

 けれど。

 物凄く戸惑った目が、彼女を見たのだ。
 さっきの言葉に、どう反応したらいいのか分からないような顔。

 あれ?

 自分が変な言葉を言ってしまったのかと、彼女は首を傾げようとした。

 すると、カイトはまた背中を向けてパソコンに戻る。

「入りてーなら、入ってこい」

 それが返事だった。

 あ。

 分かった。
 メイは、分かってしまった。

 自分がお風呂に入りたいから、家主より先に入るワケにはいかないから、カイトにお風呂を勧めていると思われたのだ。
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