冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あ、そうじゃ…そうじゃないの。

 穴ボコだらけの計画に、自分でハマってしまったことに気づく。

 いや、確かにカイトより先にお風呂には入れないと思っていた。

 当たり前のことだ。

 彼女の立場は、とても複雑で微妙なのだ。

 客でもないし、友達でもない。

 保護者と被保護者というのが一番近いのだろうか。

 たとえ、それだとしても余りに不安定だ。
 社会上のサインが何一つなく、全てカイトの胸一つにかかっているのである。

 けれど。

 彼は優しいから、出て行けとは言わないだろう。
 それは、さっきの事件で分かった。

 もう、あんな迷惑はかけないようにしなくちゃ。

 ぎゅっと心を戒めて。

 けれども、まだカイトのシャツの件は解決していない。

 なのに、もう計画を実行出来る言葉を見つけられないのだ。

 また、カイトが振り返った。

 今度は、あの戸惑った目じゃない。

 不機嫌な、いつもの目だ。

「フロ入ってこい」

 メイが一向に立ち上がらないのでシビレをきらしたのだろう。

 遠慮していると勘違いしているのだ。

 そうじゃない、と言いかけたのだけれども、カイトがもう一度同じセリフを――前よりもイライラして繰り返したので、慌てて彼女は脱衣所に飛び込むハメになったのだった。

 こんなハズじゃあ…。

 脱衣所で、メイは白くてシミのないワンピースを眺めながら、ため息をついた。

 しかし、お風呂に入らずに、脱衣所を出て行かなければならなかった。

 着替えを持っていくのを忘れたのだ。
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