冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あー。

 カイトは内心で唸った。

 彼女がどういう風に考えたか、分かったからである。

 他の女とボックスに入って、もう自分は相手にされなくなったと思ったのだ。

 だからカイトの忘れ物を、預けるか届けるかしようと思ったに違いない。

 うー……ったく。

 頭をガシガシとひっかき回したい。

 どうしてこの女には分からないのか、とそういう思いでいっぱいになりかけたのである。

 しかし、分かるハズもない。

 今日会ったばかりで、その上、彼女は今日が店の初仕事で。

 何もかも分かっていないのである。

 第一、彼だって自分の心の中にざわめく木々が、竹なのか楠なのかも分かっていないのに。

 それを相手に分かれというのはコクすぎる。

「オレぁなぁ……」

 唸るように口を開けて。

 主張したいことはあったのだ。それはもうたくさん。

 ただ、彼の口はそういうことをまっすぐに伝えるには、曲がり過ぎているのである。

 しかし、このままではラチが開かない。

 カイトは続けようとした。

「はぁ~い…私に用があるってのは……坊や?」

 なのに。

 彼がいろんな勇気をかき集めて何か言葉を作ろうとした矢先。

 素っ頓狂な声が飛んできたではないか。

 しかも、彼のことをイヤな表現で形容した。

 振り向きザマに、睨み上げる。

 ボックスの背もたれに肘をかけるようにして、中をのぞき込んでいるヤツに向かって。

「おめーが、ここのボスか?」

 フザケた格好だった。

 黒い髪に赤いメッシュ。
 露出の激しい服。

 しかし、どう見ても女じゃなかった。

 図体もデカイし、露出した胸はつるっぺただ。
 香水の匂いをプンプンふりまきながら、赤い口紅が笑う。

「そうよ……坊やは?」

 手入れされすぎている眉が上がる。

 同じ性別かどうか、疑いたくなるくらいにしっかりと化粧をしていたが、すくなくともそこのホステスよりは似合っていた。

「名乗る必要はねぇ」

 高飛車にカイトは言い放った。

 顎で、ボックスに入って来いと呼びつける。

 こんな風に見下ろされながら話をする気はなかった。
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