冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 何で、んなトコに。

 ごそごそと着替えを取るなり、彼女はまた怒鳴られないうちに、とでも思っているのか、素早く脱衣所に戻っていった。

 まさか。

 いま、自分の頭にちょっとよぎった疑惑が心配になって、カイトは立ち上がる。

 壁に据え付けの、クローゼットを開けたのだ。

 やっぱり。

 カイトは、ためいきをついた。

 予想ピッタリである。

 ハルコは、シワになってはいけなそうな彼女の服だけは、そこにかけていたのだ。

 自分のクローゼットの中に、赤だのピンクだの、そういうものがかけられているのを見るのは妙な気分である。

 だからと言って放り出すワケにもいかず、明日、ハルコにきつく客間の準備を伝えておかなかればならないと思うだけだった。

 たとえ、恐怖の大王が降ってこようとも。

 脱力しながらクローゼットを閉じると、カイトはためいきをついた。

 無意識に、自分の目が風呂場へ続くドアに向けられているのに気づく。

 クソッ。

 昨日から、この罵倒を何度言っただろう。

 思い通りにならないと、いつもこの言葉が出てくるのだが、メイに関わることでは、言いっぱなしである。

 がしがし歩いていって、そのままバスン、とベッドに座る。

 タバコを、あの取引先で吸いつくしたことを、ここで思い出してしまう。
 買い足すヒマもなく、慌てて帰ってきてしまったのだ。

 明日は、1カートン買ってやる。

 1日で肺ガンにでもなりたいのか、半分ヤケになりながらそんなことを考えてしまった。

 しかし、忌々しいのはこの枕だ。

 まだ、仲良く二つ並んでいるそれが気に入らず、掴み上げるとベッドから叩き出す。

 床に落とされた枕は、まるで溶けかけの雪だるまのように力ない。

 とにかく。

 カイトは、寝る場所を確保しなければならなかった。
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