冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 幸い昨日と違って、毛布がもう一枚用意されている。
 カイトは、それを持ってソファに行った。

 まだ寝るつもりはない。
 こんなお子さま時間に眠れるハズもなかった。

 けれども、風呂から上がってきた彼女と、また同じ空間と時間を穏やかに共有できるかというと、とてもじゃないがそうは思えない。

 結局、無理にでも早く寝てしまう運命かもしれなかった。

 とりあえず。

 メイが風呂から上がってきたら、今度は自分が入ろうと思った。

 どうしても、いま入りたいというわけじゃない。

 しかし、壁一枚でも隔てられている間は、イライラはするものの怒鳴らずに済むのだ。

 彼女じゃなくても、怒鳴られて気持ちがいいハズがない。

 なのに、どうしてもこの口は怒鳴ってしまうのである。

 何でこーなんだよ。

 置いた毛布の隣にどすんと座り込みながら、カイトは頭を抱えてみる。

 もっと普通の言葉で、会話出来るはずなのだ。同じ人間なのだから。

 けれども、メイが脅えたり、勝手に泣き出したり、気を使い過ぎたりするから。

 オレは、あいつにどうしてほしーんだ?

 昨日までのことを全部流して、それで側にいて欲しいなんて――普通の神経じゃない。

 借金という拘束があるなら、側に置いておく理由もあるだろうし、いろんなものを納得させられそうな気がした。

 借金がないなら、彼女は出ていってもおかしくないのだ。

 それは、イヤだ。

 だだっ子のように、カイトは一言で却下した。

 彼は、技術力とカンとひらめきで生きてきた男だ。
 技術力は裏付けがあるが、他の二つはそうじゃない。

 その、そうじゃない二つが、メイの右腕と左腕を掴んでいるのだ。

 結局、世の中の誰も納得できない形でしか、メイの存在を表現出来ないでいる。

 おかげで、あんなくだらなくてヘタクソなウソまでつくハメになったのだ。
< 152 / 911 >

この作品をシェア

pagetop