冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 自慢じゃないが、対外的なウソなら山のようについてきた。

 しかも、いまよりも3万倍はうまくついてきた。
 相手に高く売るためなら、どんなハッタリでもかます。

 良心なんて、痛みもしなかった。

 しょがねーだろー!

 彼女が納得させられないと、逃げられてしまいそうだった。

 いつまでたっても、信用されないように思えた。

 あんな、ちっぽけな言葉でも、メイの態度は確かに変わったのだ。

 だから、お風呂の話を持ち出したのだ。

 昨日までの彼女であれば、永遠にそこのソファで石のようになっていただろう。

 彼が気のつかない男である限り、本当に永遠に。

 この共有している時間を、自分の意思で少しでも動かそうと思ってくれたのは大きな進歩で、カイトだって少し嬉しかった。

 あれこれ考えているうちに。
 時間は経ってしまうものだ。

 ガチャリ。

 再び、ドアが開いた。

 ドキンとする。

 昨日の記憶のせいだ。
 昨日、メイはタオル一枚で出てきたのである。

 今日はそんなハズはないのに、鮮明に残っているあの映像が、彼を針でつついて追い回すのだ。

 一瞬、見てはいけないもののような気がして目をそらした。

 パタン。

 ドアが閉ざされて――再び、同じ水槽に戻ってきたのだと、彼にイヤでも教えてくれる。

 同じ水の中。

「お先に…いただきました」

 ぺこっ。

 多分、頭を下げながら言ったのだろう。そういう声が聞こえる。

 風呂くれーで、頭下げんな!

 カイトは、また思い通りにならない彼女にムッとして顔を上げた。

 しかし、怒鳴り声は出なかった。ただ、口をパクパクする。

 メイを見てしまったのだ。

 ピンクのパジャマ姿だった。

 買いたてのパジャマは、たくさん余計な折り目がついているものの、カイトはそんなもの気にならなかった。

 ただ、パジャマ姿のメイに目を奪われていたのだ。

 そう。

 当たり前の話なのだが。

 パジャマ姿というのを見るのも、初めてだったのである。
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