冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●34
 カイトは、物凄い勢いで脱衣所に突進して行った。

 バタン、ドタン!

 ドアが開いて閉まると、いきなり世界が静かになってしまう。

 そんなにお風呂に行きたかったのなら。

 メイは、随分と自分が彼に悪いことをしてしまったことに気づいた。

 シャツのことをヌキにしても、やっぱり先にお風呂に入ってもらえばよかったと後悔する。

 確か、昨日も。

 人にはお見せできない格好のメイを、風呂に行かせてくれた。

 あの後、いろいろ混乱したり立て込んだりしたから、きっとカイトはお風呂のタイミングを逃してしまったのだ。

 今朝、そのドアから出てきた彼を思い出す。

 シュウと呼ばれる男に問いつめられていた時だった。

 あの時も。

 彼女は、まだ身体になじんでいない新しいパジャマに、落ち着かない気持ちを抱えたままソファに座った。

 あの時のカイトは、2人の状況を見るやいなや――のっぽの男に食ってかかった。

 守ってくれようとしたのかな。

 ぽっと、まるで灯火のような光が胸に浮かぶ。

 けれども、メイは慌ててその火を消した。
 あっけなく吹き消せるほどの小さな火だったのだ。

 そう考えるには、余りに彼女はカイトのことを知らな過ぎたし、自分にとって都合が良すぎた。

 確かに、彼はとても優しい人だから。

 見た感じや怒鳴り声では分かりにくけれども、すごく優しい人だから、守ろうとしてくれたのかもしれない。

 けれども、それはやっぱり保護者的な感情なのだろう。

 彼が、むかし誰かに助けてもらった時のことを覚えているだけなのだ。

 でも。

 好き。

 ぽっ。

 火が灯る。

 慌てて消す。

 ぽっ。

 また灯る。

 また消す、灯る、消す、灯る、灯る灯る灯る灯るるるるる――

 メイの心は、まるで看護士の戴帽式のような有様になっていく。

 暗い心の中に、ぽつぽつと、1人では消して回れないくらいの火が灯ってしまった。
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