冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 持て余すくらいの火。

 大慌てで、メイは心のドアを閉めた。
 余りに隠せない火の数だったからだ。

 きっと、誰にでも見つかってしまう。
 世界中の人に、自分がカイトのことをどう思ってしまうか、バレてしまうに違いないと。

 しばらく混乱したけれども、何とかドアを閉めてしまうと、大きく気になることが一つだけ残った。

 シャツ…。

 彼の胸のカシオペアは、まだ消えないままだ。

「あっ!」

 メイは立ち上がった。

 まだ、諦めずに済む方法があったのだ。
 けれども、それは前に考えていた方法よりもリスクのあることで。

 彼女は、こっそりと脱衣所に近付いた。

 ドアに耳を当てて、中の様子をうかがうなどというドロボウまがいのことをする。

 水音が聞こえた。

 彼は、お風呂に入ったのだ。
 それは間違いなかった。

「ご…ごめんなさぁい」

 そぉっと。

 メイは、ドアの音もしないようにそぉっと開けたのだ。
 心の中で、何十回もごめんなさいを言いながら。

 すると、幸いなことに一番最初に脱いだようで、ドアを開けたすぐ足元に彼のシャツが落ちていた。

 彼女は慌ててそれを拾うと、そっとドアを戻した。
 ばっと目の前で広げると、やっぱり見事なカシオペアが残っている。

 急がなきゃ!

 カイトがお風呂から上がってくるまでに、応急処置だけはしておかないと、また叱られてしまう。

 メイは、部屋を飛び出した。

 幸い、廊下も階段も電気がつきっぱなしで、彼女は迷うことなく、パジャマ姿のままで階段を駆け下りることが出来た。

 裸足だったから出来たことだ。
 これがスリッパなら、転げ落ちたかもしれない。

 フロアで左に曲がって。

 そうして。

 彼女が、さっき食事をしたダイニングに飛び込むのだ。

 そこもまだ電気がついていた。

 暖房もつきっぱなしである。

 パジャマ姿の彼女には、ありがたいことだ。
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