冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 ランパブで。

 カイトに抱きしめられた。

 どうして?

 いろんなもののナゾは解けた。

 でも、どうしてあの時、彼女を抱きしめたのだろうか。

 出会って1時間も経ってない時に。

 あの後に、様々な事件がありすぎて、メイはうっかり今まで忘れてしまっていたけれども。

 酔って、た、の、か、しら…。

 ああいう店だ。
 触られるのも、覚悟してなければならない。

 カイトもそういう人だったのか――でも、何となく違うような気がした。

 ああっ!

 しかし、彼女にゆっくり考える時間なんかなかった。
 いきなり、足の裏に火がつけられたような気になる。

 いつまでのんびりとこんなところにいるのか。

 お願い!

 まだお風呂にいて。

 メイは、シャツを持って駆け出した。
 カイトが長風呂であることを祈るしかない。

 あ、電気!

 慌てる指で調理場の電気だけは消す。

 後は一目散だ。

 廊下を走ってフロアに出て。それから階段に――


 バターンッッ!!!!


 物凄い、音がした。

 メイは、3段目にかけようとした足を止めてしまう。

 上の方からだったのだ。

 そう。

 ドアが思い切り開けられて、反対側のカベにブチ当たったような――そんな音。

 彼女は。

 慌てて、シャツを後ろに隠した。

 いくらシミを落としたかったとはいえ、ドロボウ猫のような真似をしたことだけは、間違いなかったのだ。

 ダダダッッという音を聞いた時、メイの心臓の音かと思った。
 けれどもそれは、廊下をすごい勢いで走っている音で。

 その音が、止まった。

 すぐ真上の辺り。

 誰かの驚いた波が、全身に伝わってくる。

 顔を上げられない。

 言い訳が、いくつでも頭の中に思いついては弾ける。

 どれも、彼に言えそうになかった。
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