冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あ~ら……鼻っ柱は強いみたいね」

 クスッと笑う唇に、眉を顰める。

 しかし、ボスとやらはボックスに入ると、カイトの向かいに座った。

 ホステスは、一体何が起きているか分からないようで、カイトとボスをオロオロしながら交互に見つめる。

「それで……なぁに?」

 タバコに火をつけながら、ボスは言った。

 横目で、ちらりと彼女を見る。

「面倒くせぇ話し合いをする気はねぇ……単刀直入に言うぜ」

 カイトは、唇を舐めた。

「その女を、この店から辞めさせる」

 これは――交渉だ。

 いくらサポート役がいたからと言っても、彼は交渉の一つも出来ずにのし上がってきたワケではないのだ。

 ダテで社長はやってないのである。

「え……?」

 先に反応したのは、女だった。

 驚いた一声をあげる。

 ボスの方は、しばらく黙っていた。

 それから、カイトを見つめる。

「無理よ……」

 分かってるでしょ?

 下がり気味の目尻からカイトに匂わせる。

 その香水を吸い込みたくもなく、カイトはぐっと一度口を閉じた。

「無理じゃねぇよ……」

 分かってんだろ?

 カイトはつり上がった目の上辺から、ボスとやらを睨んで笑った。

 相手が分かるハズがあろうがなかろうが、そういう意味を含めるのが交渉というものである。

 ただの坊やだと思うなよ。

 そういう意味を込めた笑みだったのだ。

 アホなハードメーカーと何度となくやりあった彼だ。

 ソフト会社にとって、そのソフトを乗せるハードメーカーとの契約条件一つで、致命傷だって負いかねない。

 最高条件をもぎ取るためには、最高級のソフトを作り上げ、力でハードメーカーをねじ伏せなければならなかった。
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