冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 それを確認した瞬間に、カイトは全身の力が抜け落ちそうになった。

 下手したら、そのままヘナヘナと座り込んでしまいそうだった。

 思わず、階段の手すりに寄りかかる。

 いなくなったのでは、なかったのだ。

 その事実が、彼の身体に乱暴な安堵を押しつけたのである。

 本当に、本当に、全て自分じゃないような気がした。
 この身体中も、心も。

 …クソッ。

 手すりを掴んで、カイトは一歩階段を下りた。ゆっくりと。

 胸の裏側がジンジンした。

 何で、彼女がいなくなることをこんなに自分が恐れているのか――いや、いなくなった時の仮定を、いま突きつけられたような、そんな気がした。

 メイがいなくなると。

 自分は、ああなってしまうのだ。

 その事実が、信じられなかった。

 足の裏が冷たいことなんて全然感じずに、彼は階段を下りた。

 あと3歩。2歩。
 そうして、1歩。

 うつむいた彼女の真ん前で止まって、カイトはまだ半乾きの黒い髪を見る。

 何で。

 何で、部屋から出てたんだよ、おめーは。

 そう言いたかったのに。

 怒鳴りたかったのに、カイトの口は開かなかった。
 まだ、ショックから抜け切れていないのである。

 けれども、彼女が何かを後ろに隠しているのは分かった。

 ショックのせいか、自分でも何の気負いもなく彼女の腕を掴むことが出来た。
 そのまま引っ張ると、白いものと一緒に手が出てくる。

 メイの細い指に握られていたのは。

 彼の。

 白い。

 シャツ。

 カイトは、目を見開いた。

 シャツにも驚いたのだが、それだけじゃなくて。

 メイの腕が、余りに冷たかったから。

 こんなに冷たくなるまで、彼女は何をしていたのか。カイトのシャツなど持って。

 もし、これが今日彼が着ていたシャツであるなら、脱衣所で脱いだハズである。

 出てくる時の緊張にかまけて、床に脱ぎ捨てたハズのシャツのことなど気にしてもいなかった。
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