冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 今日着ていたシャツ。

 カイトは、眉を顰めた。
 シミをつけたことを、思い出したのだ。

 食事の時に、シチューをよそうなどという、慣れないことをしたせいである。

 シミをつけたこと自体は覚えていた。
 ただ、それどころではなかったし、細かいことは気にならなかった。

 しかし。

 気になった人間がいたのである。
 メイは、おそらく、彼のシャツのシミを抜いていたのだ。

 バカ野郎…。

 シャツのシミなんて放っておけばいいのだ。

 こんなに冷たくなるまで、風呂上がりの半乾きの身体のままで、するほどのことではないのだ。

 見れば、彼女も裸足だ。

 冷たくないハズがない。身体中冷え切っているのは間違いなかった。

 シャツなんか、どうでもいいんだよ!

 この、バカ!

 心の中で激しく怒鳴っているというのに、口はまだ開かない。

 ただ。

 狂おしく、抱きしめたかった。

 何度目の衝動だろうか。
 自分でも分からなかった。

 その衝動のままに従ったのは、最初の一回だけだ。
 まだ、この家に来る前の彼女を抱きしめた。

 初めて覚えた瞬間で、こらえきれなかったのだ。

 何度も覚えたからといって、楽にこらえているワケではない。

 ただ、それは彼女に誓った約束を違えることだ。
 プライドを賭けて許せないことだった。

 メイは、まだ顔を上げない。

 きっと、彼に怒られるとでも思っているのだ。本当に、怒鳴ってばかりいるので。

 それは、おめーが!

 言いかけるけれども、それもまた怒鳴りになりそうで。

 口にずしっとカセがはめられる。

 もう一度、心の中でクソッと呟きながら、カイトは彼女の腕を引っ張った。

 早く暖かい部屋へ連れ戻したかったのだ。

 こんな冷たく、静かで、そうして角度のある空間にいたくなかった。

 ぐいぐいと引っ張って。

 そう。

 またカイトは、彼女を引っ張るハメになっていたのである。
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