冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●36
 立っている状態で暗くなると、反射的に足がすくむ。

 メイは、調理場と同じ怖さを味わった。

 けれども、あの時とは違うことがある。逃げ場所がないのだ。

 調理場からは明るいダイニングに逃げ込むことが出来たけれども、ここではどこに逃げようもなかった。
 ただ立ちすくむしかできない。

 昨日、部屋を暗くされた時はもうベッドの中で。

 ああいう風に横になっている状態だと怖くないのに、こうなると途端にメイは何がどこにあるのか分からなくなる。

 いや、冷静になれば分かるし、真実の真っ暗闇というわけではないから、目さえ慣れればいいのに、先に身体がパニクるのだ。

 とりあえず、手探りでベッドに戻ろうとする。
 何かに触っていないと、落ち着かなかった。

 あ、どこ…ど…!

 立ったまま伸ばした手で、ベッドなんか触れるハズがない。

 方向はあっていたけれども、彼女は思いきりベッドのへりにつまずいた。

「きゃあっ!」

 ばふっ!

 暗いと何でも怖いものだ。
 悲鳴をあげてしまったメイは、ベッドにつっぷした。

 全然痛くなんかなかったが。

 次の瞬間。

 パッと明かりがついた。

 跳ね起きるソファのスプリングとほぼ同時だった。

 つっぷしていた彼女も、何とかその後に身体を起こすことができて。

 明かりをくれた相手の方を見ると、カイトは――彼は、いまにもソファから飛び出してこんばかりの体勢だった。

 ソファのへりに片足をかけた姿勢で止まっていた。

 見開かれたグレイの目。

 それと目が合う。

 はぁー…。

 グレイの目が閉じると同時に、すごく長い吐息がこぼれた。

 安堵の。

 そう、それは安堵の吐息とよく似ているように思えた。

 あ。

 自分の悲鳴が、心配させてしまったことに気づく。

「あ…さっきのは…その…えっと……ビックリしただけで…ごめんなさい」

 慌てふためいた言い訳なんて、うまく出来るわけもない。

 最後は、まともにしゃべれない自分が恥ずかしくなって、声を小さくして謝るしかないのだ。
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