冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 どうしよう。

 胸によぎるのは、そんな思い。

 いまの事件について、ではない。
 いや、いまの事件でも、と言った方が正しいか。

 どうしてカイトはそんな罪作りなことをするのだろう。

 悲鳴をあげようが泣こうが放っておいてくれるなら、こんなに胸が締め付けられたりしないのに。

 そんな優しさを向けられてしまうと、ひどく苦しくなってしまう。

 カイトは、リモコンを持ったままの手でバリバリと頭をかいた。

「寝ろ…」

 唸るように、絞り出すように、カイトはそれを言った。

 いろいろ心の中に言いたいことはあるようだが、結局その言葉しか出てこなかったような、そんな雰囲気の声。

 彼という男は、本当に言葉が苦手のようだ。

 だから乱暴で強引な態度や、結論だけを持ってくるようなしゃべり方をするのである。

 でも、すごく優しい。

 メイは、彼に庇護されている小動物のような気持ちになった。

 いや、犬や猫だった方がよほどマシである。
 カイトへの愛情を表現するのに、何の足かせもないのだから。

「でも! 私だけベッドだなんて、そんなの…やっぱり、おかしいです」

 ベッドの上に、座り込んで訴える。
 立ったところを、また電気を消されたら困るからだ。

 何とかして、その気持ちをちゃんと伝えたかったのだ。

 カイトは働いていて忙しくて、今日だってきっと疲れてきているに違いない。
 だから、こんなに寝るのが早いのだ。

 昨日は彼女の事件のせいで、随分遅く寝させてしまったし。

 つらいに違いないのに、その上にソファだなんて。
 身体が休まないだろう。

「いいから…寝ろ」

 突きつけるように、しかしカイトはその一点張りだった。

 相手の許可も意見もへったくれもない。そうしろ、と命令しているのである。

 メイの眉はハの字になった。

 会話の形が命令になったら、どうして彼女が拒めようか。

「あの…やっぱりソファと交代しては…くれま…」

 彼女の最後の抵抗は、しかし、ソファからのギロッという睨みでついえた。
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