冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 うつむいて、メイは言った。

「電気…消してください」

 スプリングがはねて、ソファに戻った音がする。
 またカイトがそこにひっくり返ったのだろう。

 フッ、と明かりが消える。

 メイは、まだベッドの上だった。座ったままなのだ。

 目をどんなにこらしても、もうソファの彼の姿は見えない。闇が深く邪魔をしているからだ。

 とりあえず、自分の下にある毛布を引き剥がした。

 ギシギシとベッドがきしむ音が大きく感じてビックリしながらも、ひきはがした毛布にくるまる。

 まだ。

 全然眠くなかった。

 そうして、彼がベッドで眠らないというのなら、せめてカイトの寝息を感じるまで、こうして起きておきたいと思ったのだ。

 座ったまま、メイは全身をアンテナにした。
 全てソファの方へとそそいで、耳と心を澄ます。

 ギシッ。

 ソファがきしんだ。

 彼が寝返りでも打ったのだろう。
 ばさっと毛布をかけ直すような音も聞こえて。

 メイは目を閉じた。

 そうすると、もっと彼の気配を拾えるような気がしたのだ。

 それは全て、ジグゾーパズルのすごく小さな一個の切片。

 カイトという完成図を仕上げるためには、どうしても必要な破片でもあった。

 ふーっと吐き出される息。

 きっといまは仰向けで、天井に向かってそんな息をついているのだろう。

 息を殺して、メイはその音を拾い集めた。

 自分の身じろぎ一つで、取りこぼしたりしないように。

 目を閉じた瞼には、背中がよみがえる。
 いつも彼女を引っ張っていく背中。

 心の中だったら。

 何度抱きしめても、誰からも咎められたりしない。

 今日、抱きしめたくて出来なかった気持ちで、せめて心の中で彼女はカイトの背中を抱いた。

 きっと、こう。

 いろんな記憶をモンタージュして、カイトの背中の感触や体温を作り上げようとする。タバコの匂いも混ぜて。

 でも、形が固まる前にぐにゃっと歪んで、ビジュアルもバーチャルな感触も、手からすり抜けてしまう。

 うまくいかない。
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