冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□37
 眠れっか!

 カイトは部屋を出た。

 まだこの国では、眠っている人口の方が少ない時間なのだ。
 ただでさえ夜型人間だというのに、何もかも手放しで熟睡出来るハズもない。

 たとえ。

 たとえ、昨晩がほとんど眠れなかったとしても、だ。

 カイトは裸足のまま廊下に出た。

 電気は、どこもかしこもつけっぱなしだ。
 その明かりを伝うように、カイトは廊下を通り、階段を下り始めた。

 フッ。

 いきなり、階段の電気が消えてしまう。

 カイトは、暗くなった世界で足を止めた。
 ここでメイなら悲鳴の一つもあげただろうが、彼はこんなことが怖いワケではない。

 冷静な目で、辺りを見回した。

 まだ階下は明るく、そこに人影があるのが分かる。

 見間違うハズもない。あんなのっぽの姿を――シュウだ。

「おい…」

 消すんじゃねぇ。

 存在を主張する意味も込めて、カイトはそう言った。
 大きな声を出さなかったのは、彼女の眠りを妨げないように。

「ああ…いたんですか」

 パッと再び電気をつけながら、少し意外そうな声で見上げてくる。

 大股で、カイトは階段を下りていった。

「そんな格好で、どこに行かれるんですか?」

 ずかずか降りてくるのはいいけれども、彼はそんなシュウを無視して、脇を通り過ぎた。

 許可を取る必要も、説明をする必要もないと思っていたからだ。

 そのまま、ダイニングの方へと向かう。

「社長…いえ、カイト…」

 予測不能の行動に出ているせいだろう。

 シュウは後ろからついてきた。色々と、言いたげな様子だ。

 カイトは、それを無視してどんどん歩く。

 ダイニングに入ると、そこもまだ電気がつけっぱなしだった。

 多分、もうちょっと彼が来るのが遅かったら、この眼鏡男に電気を消されるところだったろう。
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