冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「…お酒なら、ご自分の部屋にもあるでしょう」

 カイトの目的が、何であるのかに気づいたのだろう。

 彼は、怪訝そうに後ろからそう言った。

 イライライライラ。

 ここまで怒鳴らずにいたのは、全部メイの睡眠のためであって、シュウのためではない。

 心穏やかだったワケでもない。

 当然心の苛立ち度は、メーターを上げていたのだ。

 カイトは踵を返すと、入り口の辺りにいる彼の方へと突進した。
 そうして、彼の脇から手を伸ばすと、ダイニングのドアをバタンと閉めた。

 ちょうど、ドアと自分でシュウを挟んでいるような状態。

 これほど近い距離になると、かなり見上げなければならないのが、どうにも腹が立つ。
 子供の頃から、身長では一度もシュウに勝ったことはなかった。

 まあ、相手の方が年上なのだから、というのもあったのだろうが、遺伝か食生活か生活習慣か、とにかくその辺の問題でもある。

 ニョキニョキ伸びやがって。

 まるで、ネギに向かって言うように――しかし、忌々しい思いだった。

 思い切り、下から睨み上げる。

 ドアを閉めたのは、防音のためだ。


「オレがどこで酒を飲もうが、何をしようがオレの勝手だ! いちいち口はさんでくんじゃねー!」


 カイトは、心ゆくまで怒鳴った。

 シュウの眼鏡が、ズレ落ちそうになるくらいの勢いだ。

 怒鳴り終わると、カイトはもう一度ドアを開けた。
 そうして、そのひょろ長い身体を蹴り出す。

 ゲイン、と。

「ああ…何てことを…」

 痛いとかそういうことよりも、彼の仕打ちに不満があったのだろう。

 サイボーグ・シュウは、廊下によろけ出た。

 バタン。

 彼の抗議を、最後までおとなしく聞くタマではない。

 シュウは追い出され、ドアはしっかり閉ざされた、ということだ。

 向こう側でため息をつく音が聞こえる。

 何をされても腹が立つが、いま一番腹が立つのは、このドアをもう一度開けられることだった。
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