冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●38
「……!!」

 本当は、「きゃー!!」と叫びたかったのだ。

 自分の身体にずしっと何か大きなものが降ってきて、反射的に目を覚ましたメイは、驚きの余り声にならない悲鳴を上げた。

 その重みで、ベッドの上に仰向けに倒れて。
 しかし、それでも軽くはならなかった。

 自分の身体の上に重石があるのだ。

 な、な、何?

 心臓が口から飛び出しそうだった。

 何が自分の上に乗っているか分からなかったのだ。

 しかし。

 ドキン!

 一際強く、心臓が跳ね上がった。

 彼だ。

 メイは分かったのである。

 いま、自分の上にいるのは――カイトだったのだ。

「あ…あ…」

 これは一体どういうことなのか。

 彼女には触れないと宣言してくれたハズのカイトが、何故いま自分にのしかかっているのか。

 優しいハズの、彼が。

 メイは唇を震わせた。

 この突然起きた現象に対処出来なかったのだ。
 彼を抱きしめたいという衝動は覚えたけれども、こういうのとは違うのだ。

 こういうのとは――

 しかし、メイの硬直は解けた。

 自分の耳元で、カイトの息を感じたからだ。

 規則正しく繰り返されるそれは、まるで寝息だった。

「え?」

 目を今度は見開いて。

 意識を彼の唇の方へと向ける。

 すーすーすー。

 静かな呼吸音。

 それと、お酒の匂い。
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