冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□5
「あんたみたいなバカは、初めて見たわよ……」

 首を竦めながら、ランパブのボスは、アタッシュケースごと受け取った。

 驚いたせいか、言葉から毒気が抜けている。

「そうか? オレもおめーみたいなオカマは、初めて見たぜ」

 精神的優位に立ったせいで、カイトの言葉の方が断然毒気があった。

 カチンときたのか、ボスが片目だけ顰めて見せる。

「けど……まだ数えたワケじゃないからね。この中身……足りなかったらどうするつもり?」

 意地悪な顔で、オカマはアタッシュケースを揺らしてみせる。

 足りないハズはない。

 カイトは、分かっていた。

 それどころか、3千万はくだらないハズだ。

 おそらく、相手にも分かっているはずだから、ただの脅しだろう。

 カイトはポケットから名刺を抜いた。

 ボスは。

 右手にアタッシュケース。左手にタバコという出で立ちだった。

「むぐっ……」

 彼は目を白黒させた。

 カイトが、その口に名刺の端をくわえさせたからである。

 これ以上、チャチャを入れられるのはイヤだった。

「たりねーんだったら、いつでもそこに来い」

 銀の名刺が、キラッとボスの口で反射した。

 その端を噛むようにしながら、やってくれるわね、と目で睨まれる。

 カイトはどこ吹く風で立ち上がった。

 そうして――女を見る。

 ぽかーん。

 そういう顔をしていた。

 タマシイが、すっかり身体から抜けかけている。

 目も口もかぱっと開けたまま。

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