冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「そろそろ用意をしないといけませんが…起きてますか?」

 シュウである。

 昨日で学習をしたのか、ドアを開ける様子はなかった。

 いまほどこのロボットを、頼もしく思えたことはなかった。

 渡りに船とはこのことである。

「起きてるぜ!」

 わざと大声でドアに向かって怒鳴って、カイトは立ち上がった。

 これから。

 忙しくなるのだ。

 だから、忙しいカイトは、メイの方を見ているヒマなどないのである。

 しょうがない。

 忙しいのだから。

 カイトは、クローゼットの扉を開けた。

 彼の服と、端に彼女の華やかな服。
 その色を見ないようにしながら、彼はハンガーをガチャガチャ言わせた。

 あ。

 そして、思い出したことがある。

 カイトは、眉間に一番深い海溝を刻んだ。

 ぶすったれる口になる。

 何を考えてるんだ、と自分に向かって叱咤をかます。
 怒鳴りちらす、わめき立てる。

 メイの視線を背中に感じた。

 彼女が、自分を見ているのだ。

 汚い言葉を頭の中でさんざん巡らしながらも、ついにカイトは今日着る服を掴み出す。

 転がり落ちるハンガーなど置き去りに、彼は大きな歩幅でドスドスと脱衣所に向かったのだった。
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