冬うらら~猫と起爆スイッチ~
●
「カイト…そろそろ降りてきて下さい」
時報を告げるように、ドアの向こうの辺りから声が投げられる。
そんなに近くないところからのハズなのに、はっきりとその声は聞こえた。
怒鳴るようなものではない。
距離と音量を巧みに計算しているような、そんな精密な音だ。
あっ!
行ってしまう!
その最後通告に突き動かされて、メイはベッドを飛び降りた。
カイトはまだドアのところだった。
「わぁーってんだよ! おとなしく待ってや…!」
こっちは、まったく計算されていない怒鳴り声。
それをドアの外に向かってカイトが言っている――が、途中で止まった。
メイが、彼のすぐ側まで駆けてきたので、きっと驚いたのだろう。
怒らないで…。
彼女が出来るささやかなことを、カイトにしてあげたかった。
だから、こんなささいなことで怒らないで。
祈るような気持ちで、彼に指先を伸ばした。
「すみません…」
身体ごと振り返るカイトの胸の内側に、するっと指先を滑らせる。
何の抵抗なくネクタイを掴めた。
「すぐ…すぐ、終わりますから」
カイトの目を見ないようにする。
こんな近くで覗くには、余りに熱い目なのだ。
彼の顎の辺りを見つめたまま、メイは慌てた指でネクタイを締めた。
いまにも間近から、怒鳴り声が飛んできそうだ。
自分の身体が、すっかり構えてしまっている。
チラリ、とカイトの唇が目に入るが、それは少し開いたままだった。
怒鳴るために力を入れる気配がなく、ホッとする。
まだ、侮れないけれども。
「カイト…」
メイは、ビクリとした。
ドアのすぐ側から、その呼び声が聞こえたのである。
出てこない彼を迎えに来たのだ。
「カイト…そろそろ降りてきて下さい」
時報を告げるように、ドアの向こうの辺りから声が投げられる。
そんなに近くないところからのハズなのに、はっきりとその声は聞こえた。
怒鳴るようなものではない。
距離と音量を巧みに計算しているような、そんな精密な音だ。
あっ!
行ってしまう!
その最後通告に突き動かされて、メイはベッドを飛び降りた。
カイトはまだドアのところだった。
「わぁーってんだよ! おとなしく待ってや…!」
こっちは、まったく計算されていない怒鳴り声。
それをドアの外に向かってカイトが言っている――が、途中で止まった。
メイが、彼のすぐ側まで駆けてきたので、きっと驚いたのだろう。
怒らないで…。
彼女が出来るささやかなことを、カイトにしてあげたかった。
だから、こんなささいなことで怒らないで。
祈るような気持ちで、彼に指先を伸ばした。
「すみません…」
身体ごと振り返るカイトの胸の内側に、するっと指先を滑らせる。
何の抵抗なくネクタイを掴めた。
「すぐ…すぐ、終わりますから」
カイトの目を見ないようにする。
こんな近くで覗くには、余りに熱い目なのだ。
彼の顎の辺りを見つめたまま、メイは慌てた指でネクタイを締めた。
いまにも間近から、怒鳴り声が飛んできそうだ。
自分の身体が、すっかり構えてしまっている。
チラリ、とカイトの唇が目に入るが、それは少し開いたままだった。
怒鳴るために力を入れる気配がなく、ホッとする。
まだ、侮れないけれども。
「カイト…」
メイは、ビクリとした。
ドアのすぐ側から、その呼び声が聞こえたのである。
出てこない彼を迎えに来たのだ。