冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あ、どうしよう。

 あとちょっとでネクタイは締め終わるけれども、いま開けられたら。

 こういう現場を、あののっぽのシュウという男に見られたら。

 ただでさえ誤解されているのに。

 緊張が走ると、途端に指先が悪い魔法にかけられる。

 うまくネクタイが掴めない。

 最後の通しがうまくいかずに、メイはもたついた。
 それで更に胸がドキドキする。

 ガチッ。

 そういう金属音がした。

 何か分からなかったけれども、とにかく慌ててネクタイと格闘する。

「カイト…いるんでしょう?」

 返事のないドアに、指がかかるような音がした。

 ああ。

 ようやく最後の通しが出来たけれども、ここからきゅっと襟元まで詰めなければならない。

 開けられる――間に合わない。

 メイは、悲鳴のようにそう思った。

 が。

 ガチャガチャッ!

 ドアノブは回されたようだが、ドアは開かなかった。

 ただ無情な、ロックの音を立てるだけである。

 あっ!

 メイは、ぱっと顔を上げた。

 そこには、カイトの目があるはずだった。

 彼は――仏頂面で斜め上を向いている。

 だから、メイと目が合うことはなかった。
 ひん曲がるように閉ざされた口。

 眉がイライラしている。

 メイは、分かった。

 彼が、さっき後ろ手でドアのカギを閉めたのだ。
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