冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□41
 何やってんだ、オレは!

 イライライライラ。

 階段を駆け下りながら、カイトはネクタイを物凄い勢いで解いていた。

 胸の中では、大声で自分に怒鳴り続ける。

 ここに来るまでに自分がしてしまった失態が、両手の指でも足りないような気がしてしょうがなかったのだ。

 ネクタイを首からぶらさげて、ついでにボタンも一つ外したところで、玄関にたどりつく。

 ドアの外では、車のアイドリング音。
 出かける準備は万端といったところか。

「遅かったで…?」

 シュウは、運転席のドアのところで彼を待っていた。

 しかし、言いかけた言葉を途中で切って、怪訝そうな目で彼を眺めるのだ。

 上から下まで。

「るせー! 何でもいいから、とっとと出せ!」

 彼が何を言いたいかなんて、最初から分かっているのだ。

 それが、既に失態の一つなのだから。

 怒鳴ることで、シュウをねじふせようと思った。

 いまにも車をけっ飛ばしそうな彼の勢いに、眉を少しだけ動かした後、シュウは無言で車に乗り込んだ。
 カイトも後部座席に乗り込む。

 ルームミラーの中を、覗かないようにした。

 絶対に、そこに彼の視線があるだろうことが分かっているからだ。

 チクショー。

 腹が立ってネクタイを完全に首から外し、そこらに放り投げる。上着も。

 どかっと座席に背中を預け、オレは眠いんだというポーズで目を閉じるが、全然安らかじゃないのは自分でも分かっていた。

 無言のまま、車が動き出した。

 何の心配もいらないシュウの運転が始まる。

「聞いてもいいですか?」

 7つめの信号にさしかかった時、シュウはようやく口を開けた。

 目を閉じているけれども眠っていないのは、百も承知という口調である。

「ダメだ」

 しかし、カイトは即答だった。

 ただの拒否ではなく、つけいる隙も与えたくないほどの強さを込める。
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