冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 怒り心頭。

 イライラが冷めないまま、カイトは上着を担いで社に入った。

 シュウは、いつも地下駐車場に車を置いてくるので、彼だけで社長室に向かう。

 受付を通り過ぎて、エレベーターに乗る。

 他の社員も同乗していたが、彼の険しい顔に、誰も挨拶一つかけられない様子だった。

 この険しい顔が、昨日の取引が失敗だったんではないか、という怪しい噂を産むのだが、カイトが知るヨシもない。

 社長室の階に到着し、カイトは秘書室の前を大股で通り過ぎようとした。

 しかし。

「おはようございます…社長」

 彼の秘書は、社長の機嫌などまったく関与しない。

 カイトは返事もせずに通り過ぎようとした。

「今日は、確か開発室に入れるようにスケジュールを調整していたはずですが?」

 けれども、有能で美人の秘書は、彼の姿を見過ごしてくれない。

 要は、何故背広で出社したのか疑問に思っているのだ。

 ハルコの推薦で後ガマとして入った彼女は、確かに仕事は出来る。
 しかし、いささかカイトには、高飛車な女に見えた。

 女扱いしようものなら、鼻でせせら笑われそうな感じだ。

 勿論、それは偏見だったが。

 そんな秘書に、スポーツインストラクターの天真爛漫過ぎる彼氏がいることをカイトは知らない。

 その男のせいで、後々大事な秘書をまた失うハメになることも。

 もとい。

 カイトは、彼女の質問には答えなかった。

 そのまま社長室の扉を閉めて、外界と遮断するのだ。

 今日は誰に何を質問されても、それだけで怒鳴れそうな気がしていた。

 とっとと開発室にこもりたかった。

 プログラムの仕事をしている時は集中できるので、他の煩雑なことを忘れられるのだ。

 しかし、彼にはその前に一つ仕事があった。

 くそー。

 昨日に続き、今日も彼女に電話を入れなければならないのだ。

 女相手どころか、滅多に自分からケイタイをかける男ではないカイトには、非常に嬉しくない事態だった。

 そう、彼の元秘書であり現在の家政婦でもある――ハルコにである。

 用件は2点。
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