冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 1つめの用件はかなり重要な事項である。極秘のハンコを押してもいいくらいだ。

 客間。

 そう、今日は何が何でもハルコに、客間の用意をさせないといけなかった。

 台風が来ようがヤリが降ろうが、何が何でもそれだけは絶対だ。

 もう、昨夜みたいな失態はまっぴらだった。

 二度とあんなことが起きないように、禁酒をしなければならないかと思うほどだ。

 禁酒のことをよぎらせたついでに、ヤニ切れの自分を思い出す。

 カイトは机に腰掛けると、内線を押した。
 秘書室がすぐに出る。

『はい』

 よどみない秘書の声。

「ラーク、1カートン買ってこい」

 カイトは顔を顰めながら言った。

『は?』

 しかし、彼女にはうまく通じなかったようである。
 珍しい聞き返しだ。

「ラークを1カートン買ってこいって言ってっだろー!」

 同じことを2回繰り返すには、彼は余りに短気者だった。

『…承知しました』

 私は秘書であって、タバコを買ってきたりお茶くみをする女じゃありません。

 カイトには、彼女の返事はそう聞こえた。

 フン。

 セクハラで訴えたけりゃ、やれ!

 本当に感情もコントロールできない、周囲にしてみればハタ迷惑な社長である。

 シュウが、いろんな部分をうまくフォローしているからこそ、会社として成り立っているのだ。

 かと言って、シュウが社長だったら、ここまで一気に会社は発展しなかっただろう。

 しかし、これで完全に人払いもできた状態になったことは間違いない。

 カイトはようやくケイタイを取った。

 客間以外に、もう一つハルコには言っておかなければいけないことがあった。

 重要度でいけば、そっちの方が確かに低いのだが――しかし、放ってはおけない事項でもある。

『はい…』

 ケイタイから、ハルコの声がした。
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