冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「そう? でもね、実は私も朝食はまだなの…少し寝坊してしまって…よかったら、一緒にいただかない?」

 そう言われると、断る理由もない。
 2人で部屋を出て、階段を下りる。

 ダイニングにつくと、何故か昨日なかったお酒の瓶が転がっている。

「カイト君ね…まったくもう」

 ハルコは苦笑しながら、それを片付ける。

 昨日――カイトは、ここで飲んでいたのか。

 その後、ベッドの上のあの騒ぎになったのである。
 自爆材料であるその記憶に触れないように、メイは記憶を遠くへ放し飼いにした。

 まだ、彼女は冷静にそれを処理できないのだ。


 昨夜のビーフシチューの残りと、パンに温かいミルク。

 コーヒーは、今は飲まないの。

 そうハルコが笑ったのを、メイは耳の余韻に残していた。

 昨夜の食事風景とは、何もかもが違っていた。
 怒鳴り声はなく、穏やかで静かだった。

 けれども、昨日彼の座っていた席を見てしまう。

 シチューが指についたのを舐めていた画像が、やや劣化した画質だけれども、記憶の中にコピーされていた。

「ねぇ…差しでがましいかもしれないけれども…彼と、仲直りできなかったの?」

 記憶の画像に足を取られていたメイは、その言葉にハッと我に返った。

 よく聞こえない。

 そういう顔をすると、もう一度ハルコは、いま自分の言った言葉を繰り返した。

 仲直り?

 メイは首を傾げた。

 何のことか分からなかったのだ。

 仲直りというほど、カイトと仲がいいワケではない。
 彼にしてみれば、メイは被保護者のようなものだ。

「あら…? 私、何か勘違いしているのかしら?」

 そんなメイの、不思議そうな顔を見たのだろう。

 ハルコは、自分の推理に苦笑していた。おかしいわね、と。

「あ!」

 そこで、メイは分かったのだ。

 彼女が、自分たちの関係をそういう風に見ていたということを。

 メイが昨日泣いたのも、カイトが怒鳴っていたのも――ハルコの目には、そう映ったのだろう。

「あ…違います! そんなんじゃないんです…全然違います!」

 急いで否定する。

 カイトに妙な誤解をくっつけるワケにはいかなかった。
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