冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 確かに。

 彼のことが好きだけれども、それを言う日はきっと来ない。

 この状態では、絶対に来てはいけないものなのだ。

「え…ああ、そうなの…私はてっきり…でも、彼は…」

 戸惑いがちに、いろいろな言葉がハルコの唇からこぼれる。
 最後は小さく消えていったけれども。

 考え込む瞳。

 やっぱり。

 一つ屋根の下の同じ部屋に、男女が一緒に過ごすのは、絶対に誤解の元だ。

 だから彼女も、そしてあののっぽのシュウも、そういう目で見てしまったのだろう。

 このままでは、本当にカイトに悪い噂を立ててしまいそうだった。

「あのね…今日電話があったのよ。あなたのために客間を用意してくれって…それで少し気になって…ごめんなさい。変に勘ぐって」

 席から立ち上がりながらも、ハルコはまだ少し考えているような顔だ。

「いえ…そんな。私こそ、よくしてもらって…ホントに、信じられないくらいです」

 本当なら、いまもまだあの店で働いていたはずだ。
 昨日の夜も、ああいう姿で知らない男の人の横に座っていたに違いなかった。

「事情を聞いてもいいかしら? 勿論、ダメだったらいいのよ」

 にこ。

 お茶のお代わりを注ぎにきてくれる。

 メイは、反射的に硬直した。

 事情。

 彼女が、この家に来ることになった事情のことを、ハルコは言っているのだ。

 真実の内容が、頭の中のベルトコンベアに乗せられて見えてくる。

 一つ一つ、荷物のように乗って通り過ぎているけれども、どれもこれも見栄えのいいものはなかった。

 目をそらしたいものばかり。

 言えない…。

 メイは口をぎゅっと閉じた。

 でも、いつかカイトが言ってしまうのだろうか、彼女の過去を。

 いや、そうしないでいてくれるような気がする。

 そんな気がした。

 カイトは口べたで不器用そうだけれども、すごく優しい人だから。

 多分、言わないでいてくれる。

 けれど、そういうことを聞いたら、ハルコがいままでと見る目を変えてしまいそうな気がした。

 生まれも育ちもよさそうな彼女には、多分、信じられない世界だろう。
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