冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「ああ、ごめんなさい…無理を言ったわね」

 向かいの空いている席に再び座りながら、ハルコは返事を要求しなかった。
 沈黙で察してくれたのだろう。

「いえ…その…」

 メイは言葉を探す。

 ここにいればいるほど、どっちにしろいろんな人に事情を聞かれる日が来るだろう。
 いつまでも、だんまりではいられないのだ。

 全部ありのままでなくても。

 好意で彼女をここにおいてくれているのだと、それくらいはうまく伝えないと、彼が誤解される。

 女を囲っているとか。

 自分がいま想像した言葉が、余りに下世話で、でもありえそうな誤解ということに気づく。

 カイトを冒涜しているような気がしてしょうがなかった。
 でも、誰かが考えてしまうかもしれないのだ。

 そんな誤解で、彼を包みたくなかった。

「…私がとても困っていたところを…あの人が助けてくださったんです。その…私、行くところもなくて」

 だから、自分はここに置いてもらっているのだと、メイは下手な言葉ながらに、ハルコに必死にアピールしようとした。

 唇が震えてしまうのは、怖いから。

 これ以上のことを具体的に聞かれても、何も答えられないせいだ。

 カチャ。

 ティーカップが小さな音を立てた。

 その間、沈黙が流れる。

 どこを見たらいいのかも分からずに、ただじっとしていた。

「ごめんなさい…立ち入ったことを聞いてしまって。この話はやめましょう? さぁ…これから、あなたの部屋の準備をするけれど…好きな色は何?」

 重くなった空気を取り払うかのように、ハルコは優しい笑顔を浮かべた。

 そうして、好きな色を聞いてくるのだ。
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