冬うらら~猫と起爆スイッチ~
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 ガチャガチャガチャ!

 壊れんばかりの強さと勢いで、キーボードを叩く。

 本日すでに3箱目になったタバコをくわえながら。
 彼の周囲には、白いモヤがかかっていた。

 開発室はオタクの巣だ。

 連中は、暑いだの寒いだのにいちいちうるさく、ここの中は万年常春のマリネラばりの温度である。

 カイトには、やや暑いくらいで。

 上着はそこらに捨てて、腕まくりをしたシャツ一枚姿だった。

 側の灰皿からは吸い殻が溢れ、足元には灰が落ちまくりだ。

 しかし、そんなこと気にしてもいなかった。

 気になるのは、外野のざわめきである。

 どうにも、カイトがこの格好をしているのが不思議でしょうがないようだ。

 それを本人に言うのは怖いらしく、みな遠巻きだった。

 12月1日になったばかりの開発室は、デマだらけの噂と好奇の目で満ちあふれている。

 るせぇ!

 カイトも過剰反応しすぎだった。

 この格好に引っかかるところがなければ、もっとさらっと流せただろうに。

 結局、自分が一番気になっているものだから、余計に周囲の連中の目を意識してしまうのだ。

 ENTER、ENTER、ENTER!

 プログラミング画面に改行を入れるために、カイトはマッハの勢いでENTERキーを3度叩いた。

 プログラムというものは、作成した人間のクセがはっきりと出てしまう。

 これがまた、統一性のない連中がクセだらけで作っているために、他の人間が見たら難解な場合が多い。

 一応ゲームソフトの会社なので、作成時のガイドラインというのが存在はしているのだが、社長自らいつも破りまくりだった。

 サブルーチンを一つ完成させて保存した後、カイトは新しいタバコに火をつけた。

 何本吸っても、全然すがすがしい気持ちになんかなれずに、全身がタバコ臭くなっていくだけだ。

 ただ、タバコの本数と時間だけが増えていった。
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