冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 開発室の日は、カイトの拘束時間は決まっていない。

 好きな時に好きな仕事をしていいのだ。

 だから、自分の意思で切り上げることも出来るし、好きなだけ残業してもよかった。

 6時。

 まさしくタバコ漬けとなったカイトは、ふっと視線を上げた。

 そこに時計があるのだ。

 ちょうど、「気をつけ」をしているかのように、ぴんと背筋を伸ばして立っている針。軍隊まっつぁおの姿勢である。

 6時、か。

 昼食を食べたところまでは記憶があるが、そこからはほとんど記憶が飛んでいた。
 かなり熱中していたようである。

 周囲の連中は、さすがに静かだ。

 もう社長をエサに噂なんかしている様子もなく、それぞれのコンピュータに向かっている。

 仕事は終わりの時間だが、誰一人として立ち上がる気配はなかった。

 クリスマス商戦のゲームは、5日発売で。
 営業関係は忙しいものの、開発組は次のシメキリまでもう少し余裕がある。

 けれども開発の連中は、アフターファイブに行くところがあるようにも見えない。
 生粋のコンピュータ馬鹿たちが、選りすぐりで入社しているのだ。

 その最たるカイトも、急ぎの仕事がなくても、定時に帰ったことなんてほとんどなかった。

 だから、今日も好きなだけ仕事をしていけばいいのだ。
 シュウが先に帰ったとしても、タクシーでも何でも帰れるのである。

 うー…。

 なのに、カイトの中の動物が唸った。

 イヤな予感がするぜ。

 自分で自分に言った。

 そう、イヤな予感がするのだ。
 だから、彼は帰らなければならないのである、どうしてもその予感が気になったのだ。

 しょうがないのだ。

 とにかく。

 帰らなければならない。

 ガタッ。

 カイトは立ち上がった。
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