冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□
「し……失礼します」
ボックス席で一息ついていたカイトの耳に、周囲の雑音にかき消されそうになりながらも、そういう声が聞こえた。
ん?
片方の眉だけを上げるようにしながら、そっちを見やる。
席の入り口に、女が一人立っていた。
そうなのだ。
ここは、ランパブ。
一人で酒を飲むところではない。
カイトだって、よく行くワケではなかった。
ただ、こういう背広仕事をした日は、ウサ晴らしに来るのである。
あいにく彼の相方は、こういう夜のお遊びを快く思っていないおカタイタイプなので、さっさと一人で先に家に帰ってしまったが。
だから、カイト一人、このボックスにいるというワケである。
女の指名は、しなかった。
『うるさくねーヤツ』
それだけ。
カイトは、無言でやってきた彼女を見ていた。
ランパブなのだ。
あざとい下着姿の彼女は、おずおずとボックスの中に入ってきて、ぎこちなくカイトの隣に座った。
???
カイトは眉を顰めた。
いつもと雲行きが違ったからである。
ワゴンの上の水割りを作る道具が、ウェイターの手によってテーブルの上に並べられる間、隣の女はずっと黙ったっきりだった。
ウェイターが去った後、カイトはようやく横を向いた。
ホステスをちゃんと見ようとしたのである。
しかし。
彼女は肩を震わせたまま、うつむいていたのである。
「おい」
カイトは声をかけた。
何をやっているのか分からなかったのだ。
ビクッッ。
しかし、その声に肩が更に震えて――それから、ようやくおずおずと顔を上げてきたのだ。
でっかいチョコレート色の目が、不安に揺れながらカイトを見た。
しかし、彼のグレイの目を見たワケじゃない。
目は目でも、緩められたネクタイの結び目辺りだ。
そこから上に、視線は上がってこなかった。
似合わないくらいケバイ化粧だ。
目の上のアイシャドーの青など、全然似合っていない。
真っ赤な口紅も。
ちょいとクセ毛だが、素のままの黒髪の方が、よっぽど綺麗だ。
「し……失礼します」
ボックス席で一息ついていたカイトの耳に、周囲の雑音にかき消されそうになりながらも、そういう声が聞こえた。
ん?
片方の眉だけを上げるようにしながら、そっちを見やる。
席の入り口に、女が一人立っていた。
そうなのだ。
ここは、ランパブ。
一人で酒を飲むところではない。
カイトだって、よく行くワケではなかった。
ただ、こういう背広仕事をした日は、ウサ晴らしに来るのである。
あいにく彼の相方は、こういう夜のお遊びを快く思っていないおカタイタイプなので、さっさと一人で先に家に帰ってしまったが。
だから、カイト一人、このボックスにいるというワケである。
女の指名は、しなかった。
『うるさくねーヤツ』
それだけ。
カイトは、無言でやってきた彼女を見ていた。
ランパブなのだ。
あざとい下着姿の彼女は、おずおずとボックスの中に入ってきて、ぎこちなくカイトの隣に座った。
???
カイトは眉を顰めた。
いつもと雲行きが違ったからである。
ワゴンの上の水割りを作る道具が、ウェイターの手によってテーブルの上に並べられる間、隣の女はずっと黙ったっきりだった。
ウェイターが去った後、カイトはようやく横を向いた。
ホステスをちゃんと見ようとしたのである。
しかし。
彼女は肩を震わせたまま、うつむいていたのである。
「おい」
カイトは声をかけた。
何をやっているのか分からなかったのだ。
ビクッッ。
しかし、その声に肩が更に震えて――それから、ようやくおずおずと顔を上げてきたのだ。
でっかいチョコレート色の目が、不安に揺れながらカイトを見た。
しかし、彼のグレイの目を見たワケじゃない。
目は目でも、緩められたネクタイの結び目辺りだ。
そこから上に、視線は上がってこなかった。
似合わないくらいケバイ化粧だ。
目の上のアイシャドーの青など、全然似合っていない。
真っ赤な口紅も。
ちょいとクセ毛だが、素のままの黒髪の方が、よっぽど綺麗だ。