冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 確かにテーブルには、食事の用意が整っているようだ。

 しかし!

 何故、今日も食事の用意が出来ていて、ソウマが食前酒というのか。

 食前酒とは食事の前に――んなの分かってんだよ!

 食事の前に、まず飲む気なのだ。

 ということは、ソウマはここで食事をしていく気なのである。

 絶対。

 ハルコとグルだ。

 この家に黙って入れるのも、メイが警戒しないのも、食事の用意が出来るのも、その量も。
 すべて、頸動脈を押さえているのはハルコなのだから。

 クソッ。

 この夫婦は、カイトの行動を当てるのが大得意と来ているからハラが立つ。

 まだ、シュウのように首を傾げていればいいのに。

「オレは、ワインなんざ飲みたくねーんだよ!」

 だから、てめーも一緒に帰れ!

 カイトは、はっきりまったく1ミリの誤解も起きないように怒鳴った。
 とにかく、これ以上この空間にいて欲しくなかったのだ。

「そうか? それは残念だな…お嬢さんも楽しみにしていたのにな」

 なのに、いきなり本当に残念そうな口調になって、メイの方を見るのである。

 あぁ?

 何故、そこで話題が彼女に行くのか、カイトには理解できなかった。

「あ…いえ、私はそんな…」

 慌てて、彼女は遠慮するような唇になって。

「そうか? おいしいワインを飲んだことがないと言っていたから、是非味わって欲しかったんだが…」

 カイトが、どうしてもダメというからなぁ。

 チラリ。

 彼を見るソウマの横目。

 絶対、全て計算していた。

 ヤッちまうぞ、てめー!

 心の中で出刃包丁をひらめかせながら、頬をひきつらせた。

 しかし、「ホントにいいんです…」とメイがソウマに悪そうに言うものだから――これでは、まるで彼が悪人だ。

 彼女が、カイトの手前遠慮しているような気がしてしょうがなかった。
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