冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□
シーン。
タクシーの車内は、静まり返っていた。
運転手も、後ろはただならぬ雰囲気だと思ったらしく、行き先を聞いて以来、声もかけてこない。
カイトに、拒絶のオーラがあるからかもしれないが。
「あ……あの……」
となりの毛皮が、もこもこと動く。
カイトは、横目で彼女を見た。
落ち着かないままの、不安そうなチョコレート色だった。
どうしてこういうことになったのか、すごく説明して欲しそうだ。
説明。
カイトは、眉間の影を深めた。
できっか。
ぶっきらぼうにカイトは思った。
まだ全然、自分の中でも整理がついていないのである。
「まず……名前からと行こうぜ」
オレは、カイトだ。コウノ・カイト
何を今更。
恥ずかしいことに、まだ互いの名前すら明かしていなかったのである。
あれだけの騒ぎを起こしていながら、まだ名前すら知らなかったのだ。
しかし、あの場所では聞きたくなかった。
あの海から抜け出して、ようやく向かい合えたのだ。
車内が静かすぎて、店とのギャップがありすぎるのか、妙に落ち着かない。
「あ…私は…マ…リ…です」
ひどく。
不自然なほどひどく、たどたどしく名乗った。
カイトはムッとした。
「それ……本名か?」
無意識にとがめる口になる。
すると、彼女はうつむいた。
「……いいえ。ボスが、今日から私の名前だと言われたので」
毛皮の毛先に触れながら、どう説明したらいいか分からない唇で。
「もうあのカマ野郎はボスじゃねぇ! おめーが、ちゃんと親からもらった名前で言え」
カイトは、イラついて怒鳴った。
もう、あの店のことを思い出したくもなかったし、彼女に思い出させたくもなかったのだ。
「メ…メイです。キサラギ…メイ」
ぽつっ。
今度もたどたどしかったが、不自然じゃなかった。
シーン。
タクシーの車内は、静まり返っていた。
運転手も、後ろはただならぬ雰囲気だと思ったらしく、行き先を聞いて以来、声もかけてこない。
カイトに、拒絶のオーラがあるからかもしれないが。
「あ……あの……」
となりの毛皮が、もこもこと動く。
カイトは、横目で彼女を見た。
落ち着かないままの、不安そうなチョコレート色だった。
どうしてこういうことになったのか、すごく説明して欲しそうだ。
説明。
カイトは、眉間の影を深めた。
できっか。
ぶっきらぼうにカイトは思った。
まだ全然、自分の中でも整理がついていないのである。
「まず……名前からと行こうぜ」
オレは、カイトだ。コウノ・カイト
何を今更。
恥ずかしいことに、まだ互いの名前すら明かしていなかったのである。
あれだけの騒ぎを起こしていながら、まだ名前すら知らなかったのだ。
しかし、あの場所では聞きたくなかった。
あの海から抜け出して、ようやく向かい合えたのだ。
車内が静かすぎて、店とのギャップがありすぎるのか、妙に落ち着かない。
「あ…私は…マ…リ…です」
ひどく。
不自然なほどひどく、たどたどしく名乗った。
カイトはムッとした。
「それ……本名か?」
無意識にとがめる口になる。
すると、彼女はうつむいた。
「……いいえ。ボスが、今日から私の名前だと言われたので」
毛皮の毛先に触れながら、どう説明したらいいか分からない唇で。
「もうあのカマ野郎はボスじゃねぇ! おめーが、ちゃんと親からもらった名前で言え」
カイトは、イラついて怒鳴った。
もう、あの店のことを思い出したくもなかったし、彼女に思い出させたくもなかったのだ。
「メ…メイです。キサラギ…メイ」
ぽつっ。
今度もたどたどしかったが、不自然じゃなかった。