冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 他の男にはこんなに優しい表情が出来るのに、カイトには、おっかなびっくりな顔ばかりだった。

 これでは本当に、助けたという理由だけで彼の側にいるように思える。

 実は、短気ですぐ怒鳴るカイトのことは怖くてしょうがないのかもしれない。

 義務だけで。

 よくない方向に考えが暴走し始めていた。

 苦虫顔で肉を切って口に運ぶ。
 親の敵のように噛んだ。

 だから、メイが彼の顔を心配そうに見ているのに気づけなかった。

 隣から肘でどつかれるまで。

「おい…」

 ソウマだった。

 口の中にまだ肉が入っているため怒鳴れず、睨みだけで反応する。

「食事中に何て顔してる…一口食べたら、作ってくれた人に感謝して、『うまい』の一言でも言ったらどうだ」

 ただいまも言えない、ガキめ。

 そういう目で見られたような気がした。

 ムッとして、口の中の肉も気にせずに怒鳴りかけたが、ソウマの方がそれより早く続けた。

「ほら…お嬢さんも、マズイのかと心配してるじゃないか…せっかく、彼女が味付けしたのに…なぁ?」

 視線をメイに投げて、同意を求めるソウマ。

 もごっ!

 口の中の肉が、一瞬生きているかのように暴れて、カイトは目を白黒させてしまった。

 一歩間違えたら、変なところに入ってとんでもないことになっていただろう。

 モゴモグモグ、ゴクン!

 その白黒の目、いや実際は灰色の目で、肉をすごい勢いで噛みしめると飲み込んだ。

 何だと。

 そうして、メイを見る。

 彼女は、ぱっと顔を伏せた。

 伏せる直前に見えた心配そうな顔が、残像のように意識に焼き付く。

「辛いのを好きだと聞いて、お前の分だけわざと辛目にしてくれたんだぞ…それなのに、何て顔だ」

 嘆くフリで続けるソウマを、とりあえず憎む。

 そんなことを知っているくらい早くから来ていたのか、と。
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