冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「そんなこと…」

 あんまりカイトを責めるものだから、彼女が慌てて割って入ろうとする。

 そうならそうと、言やぁいいだろ!

 知るはずのないコトで、どうして責められなければならないのか。

 滅多に家で食事をしないせいで、これがハルコの味だのメイの味だの分かるハズもなかった。

 確かにソウマなら、毎日ハルコの手料理を食べているのだから、違いの一つも分かるかもしれないが。

 乱暴に、肉をもう一切れ切って口の中に突っ込む。

 モグモグ。

 確かに、辛い。
 香辛料がバンバン効いている――うまい。

 さっきは、怒りにまかせて食べていたので、本当に味わっているヒマもなかった。

 ゴクンと飲み込む。

「カイト…言葉は神様とは言わないが、有能な秘書くらいにはなってくれるぞ」

 回りくどく、何をワケの分からないことを、ソウマは言っているのか。

 ここで、秘書なんて単語を出すところが、小賢しい。

 確かにカイトとシュウだけでは、会社を動かすには問題があり、ハルコを秘書にしないかと持ちかけたのは、この男だった。

 彼女は、潤滑油のような働きを見事にしてくれ、会社の成功の大きな一因になったことは確かだった。

 もとい。

 要するに、ちゃんと言葉で伝えろ、というのだ。メイに。

 るせーんだよ! すっこんでろ!

 いちいち隣からチャチャが入っては、カイトだって言葉を出しにくい。

 いや、こういう時に真顔で『おいしい』と言えるような、潤いのある生活をしてきていないのだ。

「あの…ホントに…」

 無理強いをしているような状況を、彼女は止めようとした。

 その手元を見れば、まだ料理には全然手をつけた様子はない。

 彼が一口食べた後の反応を、まるでじっと見つめていたかのような。

 その事実にソウマが気づいていて、自分が気づいていなかったというコトにも腹が立つ。

 どうして彼のアンテナは、こんなポンコツなのか。

 カイトだって分かっていたら、もっと早く―― 難しかったかもしれないが。
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