冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「うめーよ!」

 ぶすったれた口で、それを怒鳴った。

 またしても怒鳴る結果になってしまう。

 これでは、無理矢理言ったかのようではないか。
 いや、無理に言った言葉ではあるのだが、内容に偽りはない。

「おいおい…カイト」

 ソウマも、そう誤解してもおかしくない言い方に物言いをつけてくるが、ギロッと一睨みで一喝した。

 どうしても、こういう風にしか言えないのだ。

 チクショー! 誤解するならしやがれ!

 カイトは、更に肉を刻むと口にかきこんだ。
 マズけりゃ誰が食うか、と内心で怒鳴りながら。

「あ…」

 けれども。

 本当は、彼女の反応が怖かった。

 だから、メイの声が聞こえた瞬間、ぱっと顔を上げてしまったのだ。

 そうしたら。

 嬉しそうに。

 本当に嬉しそうに目を細めて笑った。

 ソウマの時のように声をあげて笑ったワケじゃない。

 いまのこれは、ただの安堵に過ぎないのだ。

 けれども、メイは嬉しそうに笑ったのである。

 ぽろっ。

 フォークを落としてしまった。

 ガシャン!

 その金属が皿と奏でた最悪の不協和音が、ウサギを逃がしてしまった。

 笑顔は一瞬で消えて、驚いた目で何事かと彼を見たのだ。

 もう、どこにもあの表情はなかった。

 自分の失敗で、大事な一瞬を簡単に壊してしまったのだ。

 クソッ。

 慌ててフォークを拾い上げてそっぽを向きながら――何事もなかったかのように振る舞おうとした。

 しかし、問題だった。

 カイトが向いた方のそっぽに、ソウマがいたのである。

 ニヤニヤ。

 カイトの考えたことは、全てお見通しです、と言わんばかりの目だ。

 ムカッッ!!

 さすがに、今度の怒りは我慢できなかった。

「…っっ!!」

 ソウマが、いきなりもんどり打ってテーブルにのめる。

 テーブルの下で、思い切り隣の足を踏みつけたのだ。
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