冬うらら~猫と起爆スイッチ~
☆47
 まったく。

 ソウマは、心ではとりあえずタテマエのようにそんなことを思ったものの、ホンネはおかしくてしょうがなかった。

 ダイニングでは、楽しい夕食の宴が続いている。

 うまいワイン、うまい食事――でも、楽しい理由はそれだけじゃなかった。

 あの、カイトを、である。

 彼の愛すべき後輩であり、鋼南電気の社長であるカイトを、こんなにまでからかえる日が来るとは思ってもみなかったのだ。

 確かに、大学時代から可愛げの片鱗はあった。

 しかし、最後はいつも『ケッ』とグレて相手にしなくなるので、からかうにはサジ加減と引き際が大事だったのである。

 なのに。

 今日のカイトときたら、どうだろう。

 からかってもつついても、際限なく噛みついてくるではないか。

 目をむいて怒鳴って暴れて。

 しかも、その原因が女というから、これまたおかしくてしょうがなかった。

 あのカイトが、と驚くところだ。

 大学時代から、いつも一人ですっと現れては、静かだなと思ったら不意にいなくなっていたり。

 集団生活を最初からする気も、向いてもいないヤツだった。

 女とか色気のある大学生活よりも、パソコンや不健全な夜遊び生活の方がかなり好きだったらしい。

 女と付き合った話は、大学時代に数回は聞いた。

 けれども、一つはカイトが面倒臭くなり、一つはほっときっぱなしで女がキレ、一つはフタマタかけられた挙げ句にポイされたらしい。

 という過去を、全部知っているとカイトに言おうものなら、間違いなくソバットの刑にされるだろう。
 だから、ソウマの口は貝になるのだ。
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