冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「しかし…それをお前に言うのが妙だな。彼女にカードを持たせて買ってこさせればいいのに」

 ネクタイを緩めると、それも外して渡す。

「そうなのよ…ちょっと不思議なの。彼女の着てきた服らしきものが見あたらないし…あったのは…」

 普通の人が着られないような派手な毛皮。

「毛皮?」

 犯行現場に残された遺留品リストを聞いた時のような、訝しい声になった。

 カイトは毛皮というガラじゃないのだ。

 すると、その彼女のものということになる。

「そんなに派手なのか? その相手は?」

 少し心配になる。しかし、すぐにハルコは首を横に振った。

「それが…全然。すごく気だてのよさそうな子よ…でも、私がそれを見つけたら、慌てて彼女が取って隠しちゃったの」

 だから、彼女のものだとは思うんだけれど。

 眉間に薄いシワを寄せて、名探偵ハルコの推理が始まったようだ。

「でもね、本当にいい子よ。洋服を見繕ってきても、悪がって全然受け取ろうとしないし…彼女…ああ、メイという子よ。そのメイは、私が見つけた時、カイトくんのシャツ一枚だったの」

 それはもう、奥さんは珍しいくらいに多弁だった。
 いつもは聞き役の方が得意のハズなのだが、今日はカナリヤだ。

 ぷっ。

 吹き出してしまう。
 あのカイトが、シャツを女に貸したのだ。

 どんな顔で貸したんだか。

 頭の中では、目を三角にした仏頂面のカイトがそっぽを向いたまま、横に腕を伸ばして、『着ろよ!』と言っているギャグな姿を想像してしまった。

 そのメイとやらの服を、あのランボーがダメにしてしまったんじゃないだろうか。
 だから、服を買って来いとハルコに頼んだのでは――

 そういう風にソウマは推理した。

 ガキめ、ガキめ。

 内心でそう呟きながらも、顔がニヤけてしまう。
< 216 / 911 >

この作品をシェア

pagetop