冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 こんな楽しい一大事は、半月くらい前に実は一つあったが、普通なら滅多にない事件だった。

「それだけじゃないのよ」

 彼女は、まだ切り札を色々持っているようだ。その一つを見せてくれる。

「何だと? そりゃあ!」

 珍しく大声を出してびっくりしてしまった。

 カイトが、取るものもとりあえずといった様子で、とんで帰ってきたというのだ。

 理由が――メイが泣いたから。

 ケンカでもしたのか、どうにも2人はワケありの事態らしい。

 しかし、あのカイトが仕事をどうしてきたか知らないが、女のためにすっ飛んで帰ってきたのである。

 これは間違いなくホンモノだった。

 カイトは、本気なのだ。

 いままでの彼の人生をかいま見てきたソウマには、まさしく奇跡のように思える事件だった。

 ハルコにも同じように感じられただろう。

「あなたったら…嬉しくてしょうがないって顔してるわよ」

 目ざとい彼女に捕まって突っ込まれる。

「それは、お互い様だろう?」

 言いながらも、上機嫌になって彼女を抱き寄せる。軽くキスをして。

 そうしてハルコを胸に抱いたまま、けれども頭の半分は、その面白いカップルに向けられていた。

「何を…考えてるのかしら?」

 間近から見上げてくる唇に、上の空だったお詫びのキスをする。
 でも、やっぱり楽しいカップルに意識は捕まったままだ。

「あいつは、明日も早く帰ってきそうか?」

 この質問で、きっと何を考えていたのかバレてしまっただろう。

 彼の大好きな目の細め方で、ハルコが笑った。

「あら…賭けましょうか?」

 少し悪戯めいた言葉に、ソウマは首を横に振る。

「賭けにならないぞ、それじゃあ」

 ハハハハハ。

 気持ちよく笑ったソウマは、その後すぐにワイン蔵にこもったのだった。

 弟カイトと、その彼女への手みやげとして――
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