冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 なのに。

 目の前で見ると、彼女に聞いたのとはまた一段と様子が違う。

 カイトが、メイにメロメロなのは一目瞭然だ。
 ちょっとした仕事すら、させようとしない。

 ソウマが小さなお願いを一つしただけで、何と自分で立ち上がってその仕事をしたのだ。

 信じられない光景だった。

 あの面倒臭がり代表のカイトが、である。
 台所周りのことなど、からっきしダメな男が。

 メイが悪がって、小さな仕事でも見つけると手を出そうとするのに、それに気づくや否や『ギャン!』だった。

 しかし、あれでは彼女が怯えるばかりだというのに。

 本当に不器用な男だった。

 この状況を見ると、普通の女とは絶対にうまくいきっこない。
 いままでの女とのつきあいが短いものだった理由は、一目瞭然だった。

 こいつに。

 女に好かれようという努力は、ミクロンもない。

 それに気づくと、もうこらえきれなかった。

 くっくっくと思わず笑ってしまって、いまにも隣からフォークやナイフが飛んできそうな気配がして、何とか笑みをこらえた。

「まあ、飲め」

 機嫌を直させるために、カイトのグラスにワインを注ぐ。

 勿論、カイトが彼にワインをつぎ返してくれる――ハズなどなく、ソウマは自分のグラスが空になったままだった。

 しょうがなく手酌をしようとすると。

「あ、おつぎします」

 向かいのメイが、慌てて立ち上がった。
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