冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「ああ、すまん…頼もうかな」

 渡りに船とはこのことだ。

 手酌なんて風情のないことよりも、女性についでもらった方が何千倍もおいしいに違いない。

 それに。

 チラリ、と横目でカイトを見た。
 きっとこれにも、彼が過剰反応するだろうと思ったのだ。

 しかし、カイトはいままでと気配を変えていた。


「すんな!」


 本気で、怒っていた。

 いままでの、逆撫でられた怒りではない。本当に腹の底から怒っていたのだ。

 メイは、ビクッと動きを止めてしまった。

 何故、そうムキになる?

 たかが、何の他意もない酌だろう?

 もしも、ソウマがいやらしい目でメイを見ていたというのなら話は別だろう。

 そうじゃないことは、ちゃんと分かっているハズだ。

 それくらいの付き合いは、カイトとしてきたつもりだった。

 なのに、いきなりからかってはいけない雰囲気が流れて、ソウマは眉を寄せる。

 食事中にこういう空気にするとは。

 食事は楽しめ――をモットーとしているソウマには、この空気は非常にありがたくない。

 ふーっ、困ったものだ。

 場の雰囲気を元に戻すために、彼は会話を探さなければならなくなった。

 しかし。

 カイトが、本当に彼女のことを好きでしょうがないというのだけは、イヤというほど分かったのだった。
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