冬うらら~猫と起爆スイッチ~
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 しかも、帰らねー気か!

 食後のお茶など優雅にいただこうとするソウマの襟首を、分かりやすいくらい乱暴に捕まえて――要するに、カイトの我慢が臨界点を突破してブッ飛んだのだ。

「おいおい、いきなり…」

 突然の無礼な態度に、彼は眉を上げていさめようとする。

 その大人ぶったツラなんか、いまは見たくもなかった。

 イチイチ、カンに障る。

「るせぇ! 来いっつったら来い!」

 もう、メイの前だからとか、そういうことは考えずに、ただ感情に突っ走ることに決めた。

 大体、女一人に左右されるなんて、自分らしくないことの最先端だ。
 パリ・モードもまっ青である。

 そのまま、無理矢理ソウマを椅子から立ち上がらせると、ダイニングを連れ出したのだった。

 メイが、ティーポットを持ったままビックリ顔で見送るのが、ドアを閉める瞬間に目に入って――胸に刃物が掠める。

 しかし、キレた勢いの物凄い力でドアを閉めると、そのままソウマの襟首を引っぱった。

「こら…カイト…いい加減にしろ」

 強い力で、手がふりほどかれる。

 階段の手前で、だ。

 ばっと振り返ると、ソウマは襟を直していた。

「引っ張られなくても、ちゃんとついて行くさ…」

 襟のボタンのところに指をかけたまま、ソウマはしょうがない、というポーズで彼を見る。
 肩をそびやかさないだけ上出来だった。

「それに、ついでにこっちにも話があるからな…おっと、ついでじゃない。大事な話だ」

 ソウマは、ふざけた印象をすっと頬の筋肉の裏側に隠した。

 イヤなヤツである。

 一瞬にして、カイトのキレをつぶすような、マジを入れるのだ。

 彼女についてからかいに来たのではなく、実はこっちが本命なのだと言わんばかりだ。

 それを丸ごと信用するほど、カイトはおめでたくはなかったが。
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