冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 クソッ。

 本当に昔の自分なら、とっくにソウマにソバットをかましている。

 成長なのか、はたまたヤキが回ったのか――よく分からないから、心の中で悪態をつく。

 ソウマの先に立って、カイトはガンガンと足音も荒く階段を昇って行った。

 部屋のドアを開けると、既に暖かい。

 帰ってきて、まだ一度も部屋に入っていないのに。
 おそらく、ハルコが気を利かせて暖房のタイマーでもセットしていてくれたのだろう。

 しかし、こんなに早く帰ってくるということを、やっぱり読まれていたような気がして、さらなる苛立ちのパーセントが上がった。

 部屋に入るなり。

 何の許可も取らずに、ソウマはソファに近付くと腰かける。

 昨夜、自分が寝るために転がっていたところ――しかし、朝起きてみれば、ベッドの上にいた記憶まで呼び起こして、カイトは頭を打ち振った。

「ところで…」

 勝手にくつろぎながら、しかも勝手にしゃべりだしたソウマは、その時点では真顔だった。

 だから、大事な話とやらを切り出すのだと、カイトは思ったのだった。

 しかし。

「ところで…式はいつだ?」

 眉を上げて、カイトの反応を見る目だ。

 顔を顰める。

 非常に怪訝な言葉だったからだ。

「式って、何の式だよ…卒業式ならしてねーぞ」

 オレぁ、大学中退だ。

 うろんな目で睨み下ろしながらも、カイトは向かいのソファにドスンと座った。

 ちょうど、2人の間にはテーブルがある。
 もてなすものは、何も乗っていなかったけれども。

「おいおい、何をトボケてるんだ…この場合の式は、結婚式に決まっているだろう?」

 ソウマは、にこやかな目になった。

 あっはっは、照れるな照れるな――そんな顔だ。

 ガシャーン!!!!!

 カイトの心は、時速200キロでコンクリートの壁に衝突する、車の耐久テストの状態だった。


「誰の結婚式だっつーんだ! このドアホ!」
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