冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「あっはっは…ちょっとつついたところが、触れて欲しくなかったとこらしいな…まさか、あいつがねぇ」

 もう、いまにも爆笑しそうな勢いである。

 階段が終わってなお近付いてきながら、ちらりとメイを見て足を止めた。

「あの…これ」

 メイは、半分のワインの瓶をソウマに見せる。

 どうしましょうという言葉までは出てこなかった。

 いまが、一体どういう雰囲気なのか計りかねていたのだ。

「ああ、それは後でカイトのところにでも持っていってやってくれ…いまは、ヒステリー中だからな、もうちょっとしてからな」

 自分の言った『ヒステリー』という単語が、よほどおかしかったのだろう。

 また、肩を震わせるのだ。

 あの剣幕で怒鳴られても、彼はちっともこたえてないようで。

「逆なでるのはやめていただきたいんですがね…ただでさえ、最近情緒不安定で仕事に障っているんですから」

 おかげで、私は今日もタクシーですよ。

 メイの頭の上で、男同士の内輪の会話が始まる。
 こういう仲間的な会話が繰り広げられると、意味が全然分からない。

「そりゃあ、情緒も不安定だろう…たまらんな。まあ、続きはお前の部屋で話してやるか…お前にもいい薬になるかもしれんからな」

 シュウのコートの肩をパンと叩きながら、2人は一階の廊下の方へと歩き始めた。

「あ…お茶でもお持ちしましょうか?」

 さっき、注ぎそこねたお茶のことを思い出す。

 勿論、あの食器は片付けてしまったけれども、また用意できないことはないのだ。

 するとソウマは、歩きながら肩越しに振り返った。

 シュウは、眼鏡の端だけを彼女の方に向ける。

「ああ、遠慮しておこう…まだ、カイトに殺されたくはないんでね」

 意味不明な言葉と笑顔を残して、彼らは向こうへと消えてしまった。
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